【二章】最初で最期

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「春夏秋冬殺人事件」とは即ち、は「壱載モール」――じゃないや何故だか知らないけれど今は名前変わってモールICHINOSEでしたっけ――その「モールICHINOSE古都(こと)不知川(しらずがわ)」跡地で起きた首切り殺人を誰が行ったかというお話です。  僕自身が何故そんなのに巻き込まれることになったのかは後ほど。  すげえ脱線するので。  それよりも先に舞台となった「モールICHINOSE古都(こと)不知川(しらずがわ)」跡地について軽く触れておきますか。  もう「春夏秋冬殺人事件」自体が二年以上前の話ですし、今もそこがモール跡地として残っているのかは知りませんし、ひょっとするともう何かしらの建物が建っているのかもしれませんが、けれど少なくとも二年前の時点ではその場所――僕が居た現場は「かつてショッピングモールがあった場所」でしかありませんでした。  然るに、モール跡地なんて言い方は簡潔で的確だと思いますが、しかしそんな言い方をすれば単純にかつてショッピングモールだった建物と言う名のハコ(・・)が閉店しただけ――と、そんなほんの少し誤った印象を与えるかもしれません。  僕がその時訪れた……というより連れてこられた場所は確かにモール跡地には違いありませんでしたが、しかしそこにあったモールICHINOSEは廃虚(・・)と形容した方が正しかったと思います。  廃虚と形容できるなんて言ってもその場所がホラーゲームに出てくるような、廃墟――街中で溢れるゾンビから逃れる為に籠城する半ば放棄されている建物のように荒廃していたというわけではなく。  むしろどちらかと言えば建物の装い自体は廃虚という言葉と対極に位置するようなものでした。  内装も外装も、共につい一週間前に新装開店したショッピングモールかと見紛うばかりの建物でしたし。  ……けれど、廃虚という存在が誰かから建物を破壊されて産まれるのではなく誰かを建物から奪われて産まれる――つまり人が居なくなって産まれるという事実を一考すればその不知川(しらずがわ)モールはまぎれもない廃虚だったんです。  モールICHINOSEと言えば貴方も知っている通り、全国に星の数ほど――は言い過ぎにしても、何かを夢見て上京してくる若者の数くらいには全国各地に点在するあのモールICHINOSEです。  普通ということは数が多いということと同義ですし、それほどまでに全国展開しているということは、つまり「モールICHINOSEとはなんの変哲も無いショッピングモールである」ということなんですが……モールICHINOSE古都(こと)不知川(しらずがわ)店――不知川(しらずがわ)モールに限ってはなんの変哲も無いショッピングモールと言うには少し事情が違いました。
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