【二章】最初で最期

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 少し話が逸れますが、実は僕がモール不知川(しらずがわ)に訪れるのはその時で二度目だったんですよね。  別に最初の来訪が「春夏秋冬殺人事件」の伏線になっているとかそういうわけではなく、以前訪れた時は本当に偶々だったんですけど……僕が中三の時だからあれはもう今から五年前ですか。  もう中学三年生というワードと不知川(しらずがわ)モール周辺の地理関係でピンと来ているかもしれませんが、それは中学校の修学旅行のことでした。  当然、名前ばかりとは言え「修学」旅行ですし、観光名所でも無ければ歴史的価値があるわけでも無いショッピングモールを訪れた理由なんて自時間時間潰しに立ち寄ったことがあるというだけで、何か語るようなエピソードがあるわけでもなく――それこそ普通のショッピングモールですし――大した思い入れがあるわけでもないんですが。  そうですね……ああ、そう言えばその時偶々一階にあるドーナツ屋さんで食べ放題をやっていたので、その言葉の魅力に釣られてふらりと入店したような気がしますね。  ドーナツって食べ放題とか言われても実は四つでお腹いっぱいだということを学びました。  僕が不知川(しらずがわ)モールに持ってるエピソードなんてこの程度です。  しかし、今重要なのは僕がそこで何をしたということではなくそこが十把一絡げのような普通のショッピングモールだったということなんです。  不知川(しらずがわ)モール跡地なんて言っても、そこら「春夏秋冬殺人事件」から遡れば三年程前まではそこは普通にショッピングモールとして営業していたんですよ。  しかしその三年後、再び訪れた時にはもう既にその食べ放題をやっていたドーナツ屋さんがテナント撤退しているどころかモール自体が丸ごと閉店していて、モール跡地となっていた――変だとは思いませんか?  「ショッピングモールが閉店していた」それ自体はありえない話ではないでしょう。  それこそ僕が訪れた五年前には営業していたからと言ってその三年後も営業していなければおかしいということはありません。  飲食店なんかは一年保つ方が少数派だと聞きますし、それと比べればあんな大規模商業施設はかなり寿命が長いでしょうが、それでも商業用である以上採算が取れなくなれば閉店もやむなしではあるでしょう。  けれど「モールICHINOSE古都(こと)不知川(しらずがわ)店」に限って言えば、そこは観光都市の――ターミナル駅って言うんですか? まあ大きな駅の「不知川(しらずがわ)駅」の目と鼻の先に建っていたんですよ。  当然、数多くの商業施設が乱立する、そんな激戦区に巨体を聳え立たせているショッピングモールを利用客が訪れないわけも有りません。  帳簿を見せてもらったわけでは有りませんが、しかし経営が立ち行かなくなるほどの赤字なんてのは有り得ませんよ。
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