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それに不知川モールは僕が修学旅行で立ち寄った時に新装開店してまだ数ヶ月程度だった筈だったのに、果たしてそんなものがたったの三、四年で閉店してしまうでしょうか? 不知川駅は見ての通り二年前は愚か、今も人で溢れているというのに、不知川駅の八丈口から出て八丈通りを一つ渡れば、そんな雑踏なんて聞こえないかのように「モールICHINOSE古都不知川店」は昔と変わらない場所に、変わらない姿で人っ子一人寄り付かずに建っている。
――そこまで来たら単に奇妙な話ではなく、怪談の類になってくるはずです。
事件当時の不知川モールはさながら都市部にぽっかりと空いた真空地帯でした。
客どころか、従業員すら居ない――どころの話ではありません、通行人やそこを秘密基地として遊ぶ子供達、迷い込んだ野良猫すらも居ない。
何も居ないどころか何にもないんですよ。
一つ大通りを渡れば人気の多い駅があると言うのに、そんな場所にかつてショッピングモールだった巨大な空箱がパチンコ屋になるわけでもなく、人々を集めるどころか拒絶するように、ただ立っていた。
その異常性は誰でも分かることでしょう。
不知川モール跡地は僕らの見ている世界から位相でもズレているのか、誰からも認識されず、誰にも干渉できない――そんな世界から切り離されているかのような場所でした。
それはもうどれだけガワが綺麗でも廃虚としか形容できないでしょう? 「モールICHINOSE古都不知川店」はまさしく、廃された虚構のような場所だったんです。
ま、もっとも、前述の通り! 廃墟と言っても不知川モールの内装や外装が荒廃していたわけでもなく、空箱といっても中には沢山の宝物が詰まってましたけどね。
それはそれで、「だからこそ」と言えるような恐怖譚ですが。
全ての売り場に並べられた商品はお客様がいつ来られても万全の態勢でお迎え出来るように規律に則って陳列され――一部除き――何故か通っているらしいエレクトリックパワーのおかげで店内は明るく光輝き、現代日本の夏を語る上では欠かせない空調設備はその責務を十二分に果たし――と、ほんの昨日どころか今の今まで営業してたと言われても信じられる程にはそのモール跡地はなんの変哲も無いショッピングモールでした。
やはり人が居ないことだけを除けばですが。
そうですね、演者と撮影隊がいないショッピングモールのセットとでも称しましょうか。
多分、従業員雇って宣伝すれば翌日からでも営業再開出来たと思いますよ。
その時、食料品売り場に並べられていた食料品に印字されている消費期限や賞味期限なんかを思い出せば、今でも従業員神隠し説が間違っていたのだと強弁出来ないくらいには世界から切り離されている割に、現実的な場所だったんです。
――そうして。
そんな誰も居ない箱庭で日取其月が死んでいました。
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