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いや、ポツンと一つだけ死体があったというのは少し語弊がありますね――厳密に言えば死体は二つありました。
だって首切り死体でしたから。
首切り死体、この言葉だけでは頭部がなく、肩から下の部分だけが残されている死体を思い浮かべてしまうかもしれませんが、しかしこと今回に限って言えば頭部は死体――肉体のすぐ側に転がっていました。
仰向けに倒れている死体の延長線上――というか、本来ソレが収まるべき所の延長線上にまるでゴミ屑のように日取其月の頭は落ちていたんです。
いや、例え比類無き聖人だろうと稀代の悪人だろうと、亡くなってしまった方のご遺体を指してゴミ屑だなんて言うと僕の人間性が疑われてしまうかもしれませんが、しかこれはむしろ僕の人間性が優良だからこそ婉曲的な表現をすることを選択したという事実に他なりません。
だってゴミ屑、なんて言ったところで実際はそんな言葉で想像できるほど可愛いものでなく――ゴミ屑なんて言葉で想像出来る程綺麗なものでなく。
日取其月の死体は筆舌に尽くし難い、人間ならば誰しも嫌悪の念を押し込められないような惨状だったんですから。
勿論、何回も言っているように日取其月の遺体の首が切られていたということは間違いないのですが――其月の首は「切られていた」というほど「切られて」はいなかったんです。
首切り殺人がいかに難しいのかということは事前に説明済みですよね? 「首が切られた」という言葉が持つイメージ通り、刀でスパッと一刀両断、首が地面にコロン――と、なんてのはファンタジーだと。
達人は居ない。
しかし、首切り死体はある。
さて、つまりどういうことでしょう?
そのクイズに対する目を覆いたくなるような答えが当時の僕の目の前に転がっていました。
其月の死体は幾度も鈍重な刃物でも打ち付けたかのような有様だったんです。
刃毀れしているノコギリを力尽くで引いて首を千切り離したとしてもああはならないでしょう。
重ね重ね言っているように、それは首切り死体には違いないんですが。
しかし、其月の死体は首を切られたと言うより首を打ち据えられていたんです。
首を切り離されたというより首をミンチにされていたのだ――と言う方が適切なくらいでしたよ。
そして何より、目を覆うようなものはそれだけでは無かったんです。
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