【二章】最初で最期

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 其月(きつき)の死体には――胴体から外れた頭部の方にも、首と同じく何かを何度も打ち付けた形跡がありました。  それはもう其月(きつき)の顔の判別がつかない――どころかその凶行に使われた獲物が刃物なのか鈍器なのか見ただけでは簡単に判別出来ないほどに。  あまり詳細に言いたくは無いんですが――近くに頭が切り離された死体がなければ僕は「何故こんなブロック肉が落ちているんだろう?」と思っていたかもしれません、と、そんなレベルの破壊でした。  その死体を、と言うかその惨状を作り出した人物の得物の扱いの下手さを伺い知れば、それはもしかすると単に死体の首を切り離す時に、うっかり狙いが逸れてしまっただけと言う話なのかも知れませんが――まあそれはないと思います、僕の私見ですが。  何故ならば、其月(きつき)の死体にはその無残な頭部だけではなく、両手にもそこまで酷くないとは言え、同じような破壊の痕――つまり破壊工作の痕があったんですから。  何故そんな小細工をしたのか? その目的の断定は出来ませんでしたが……其月(きつき)は当然指紋も警察のデータベースに登録されている筈ですから、その手を潰す理由はまあ普通に考えれば指紋を潰すってとこですかね。  手を切る理由なんて他にありませんし。  それに、先程はその惨状を「血溜り」と表現しましたが――その時死体の周りに流れ出ていた血液量はやっぱり血の海ではなく血溜まりだったんですよね。  血圧が何たるかということを理解しているならば、首切り殺人なんてすれば膨大な量の血液が吹き出してその周囲は血溜まりどころか、血の海、いや血の天の河と言っていいほど赤色で埋め尽くされることが容易に予想できるでしょう。  本当に首切りを手段にして殺害に成功した奴は人体の六〇パーセントが水分という言葉を身をもって知ることになるでしょうね。  しかし、其月(きつき)の場合は血溜まりです――それの意味することとは、即ちそこで誰かが首を切って人を殺したとするには明らかに流れ出た血が少な過ぎたということです。  僕は実況見分なんて出来ませんが、けれど日取(ひとり)其月(きつき)――とされた死体の死因は首を切ったこと以外にあったということくらいは容易に看破できました。
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