【二章】最初で最期

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 つまり日取(ひとり)其月(きつき)とされている死体はただの死体になった後、首切り死体になったのだ! ――なんてことわざわざ言わなくともやっぱりと言うか、なんと言うか首切り死体って大抵そうですけどね。  全く、良識を疑うぜ。  例の格言の出番かもしれませんね。 「首切り死体を見ればまずは入れ替わりを疑え」。  個人的には気に食わないのですが、しかし、そういう個人的嗜好を捨ててフラットな視点で言えば不知川(しらずがわ)モールにあった日取(ひとり)其月(きつき)の首切り死体は正確に言えば、発見者たちの話を統合すれば日取(ひとり)其月(きつき)の首切り死体とされた身元不明の死体だったということになります。  其月(きつき)本人についてはともかく、其月(きつき)の死体について――それが其月(きつき)の死体かも怪しいところですが――僕が知っていたことはこの程度ですね。  まだちょこちょこありますが、それは後ほど。  後はここで三人ばかり登場人物を紹介したいと思います。  一人は『天道(てんどう)太陽(たいよう)』。  二人目は『仁愛(にいな)憎子(にくこ)』三番手は『日取(ひとり)甘太(あまた)』。 「首切り死体を見たら入れ替わりを疑え」と同じように謳われる文句に「第一発見者を疑え」なんて言葉がありますが、そのお約束に則ればこの三人は同時に疑わしい人間だということになります。  なにせ日取(ひとり)其月(きつき)の首切り死体を発見したのはこの三人で、僕は三人から話を聞いただけだったんですから。  しかしそんなお約束に頼らなくとも、彼らには疑わしいところがありました。  三人はその時偶々連れ添って行動していたらしいのですが、日取(ひとり)其月(きつき)の死体を見つけてしまいます。  もし死体を見つけてしまったら、その後どのような行動を取れば最善なのかということは中々難しいですが、しかし三人の行動は最善と程遠いところにあったことは間違いないと思います。  なんと、そんな死体を見つけた彼らはあろうことか、拘束衣に身を包んだ僕の元へ駆け付けるや否や、無理やりそんな悍ましい首切り死体の前まで僕を引きずって来ると口々に主張したんですよ。  三人が三人とも声を揃えて、声高々に、絶叫するように、毅然として。 『日取(ひとり)其月(きつき)を殺したのは自分だ!』と。
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