【三章】天童太陽

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「へえ、それじゃあ結構……ペンネームとかあるんですか?」 「いや、本名でやってるよ」 「じゃあ、天道(てんどう)太陽(たいよう)、か。……あー、そう言えばどっかでその名前見たことある、ような気がしないでもない気がしますね」 「ははっ、子供は別に気使わなくてもいいんだぜ? それこそ俺の本は君みたいな子供には少し難しすぎるからな」 「まあ難易以前に僕あんまり本読みませんし、たまにラノベ読むくらいですから……でも名前見たのは本当なんですけどね。書店の本棚とかで見たのかな? 代表作とかあります?」 「代表作――そうだな個人的な思い入れがあるのはデビュー作の『夜色のアイスコーヒー』とか『アロハシャツに乾杯』かな」 「『アイスコーヒー』……『アロハシャツ』……は、はあ、なるほろなるほろ」 「やっぱり、知らなさそうだな、別に構いやしないが。……じゃあ『朝凪の神水』は知ってるか? 俺も資本主義国家の一員だから世間的に代表作は一番売れたそれってことになるかもしれない」 「『朝凪の神水』……ん、ちょっと待ってくださいね、それ多分知って――朝凪、『朝凪の神水』ですか? …………ねえ太陽(たいよう)さん」 「ん?」 「つかぬ事をお聞きしますけれど、その『朝凪の神水』の主人公の名前って桂馬五分とかだったりします? 将棋の『桂馬』に時間の五分で『五分(ファイブ)』、とか?」 「ああ、そうだが。へえ、よく知ってたな。もしかすると読んだこと――」 「ふうん……じゃあ『朝凪の神水』の副題って『転生した俺はユニークスキル《推理》を使ってモテエロハーレム探偵生活始めました』とかだったりします?」 「……まあそうだな、不本意ながら」 「ああ、完っ璧に読んだことありますね?うん。正確に言えば最初の三ページくらいで『俺の探偵力は五十三万だぜ!』とか言い出したから読むのやめたので最後まで読んだことはありませんが。何が君みたいな子供には難しすぎるだこの野郎。思いっきり対象年齢中高生小説じゃねーか」 「はあ? おいおい、あまり馬鹿なこと言っちゃあいけないぜ? 俺の描く小説、俺の創り出す謎は数少ないミステリ好きが垂涎する年齢層が高くても楽しめる正統派の本格ミステリーだというのに」 「年齢層高いやつが『転生~』読むかよ――いや、実は読むって聞いたことはありますけど。でも『転生~』を正統派ミステリー好きが読むかよ」
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