【三章】天童太陽

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「――まあ、サブタイトルで倦厭されることがあるのは否定しないけどな。……だから俺は嫌だって言ったのにあの糞編集め、下手したらメインタイトルすらなくなるところだったんだぜ?」 「シャーロック・ホームズの推理譚が『転生~』にはどうやってもならないでしょうし。『朝凪の神水』を『朝凪の神水~転生した俺はユニークスキル《推理》を使ってモテエロハーレム探偵生活始めました~』に変えた奴が居るなら多分そいつは仕事出来るやつですけどね」 「ははっ、冗談きついぜ」 「ははっ、冗談きついのは全く同意しますが――けどそうですね、あくまでも正統派ミステリーを騙るというのならば、貴方は今回の一件どう考えます?」 「ん?『朝凪の神水』にふさわしい副題か? そうだな、俺ならやっぱり――」 「違ぇよ。なかなか愉快な事実の連続で話が逸れましたが僕が何しにここに来たと思ってるんですか。――『密室殺人』の話ですよ」 「ああ、それか」 「そのために僕わざわざ三人の元回ってるんですから。太陽(たいよう)さんが一人目ですけど」 「さてね、どうって言われてもな。そうだな『密室殺人』――つまり密室トリックにはいくつかパターンがあるよな? その中でも一番簡単なのは、外で殺して死体を密室に放り込むって奴じゃないか」 「つまり、密室に後乗せサクサクで殺人を上乗せして、本来独立した二つの要素を掛け合わせ、『密室殺人』にするって奴ですね」 「その言い方は語弊があると思うが――今回の事件に当てはめて言うならば……『日取(ひとり)其月(きつき)』は実は最初は一階に居たんだよ」 「ほう――なるほろ」 「そうさ、犯人は其月(きつき)を一階で殺してたんだよ。そうして殺した死体を誰にも気付かれないように運び、二階のシャッターが開いたと同時に投げ捨て、その死体を発見させることであたかも密室殺人に見せかけたのさ。事件は現場で起きたのではない、ってな」 「ま、確かにそれがシンプルで一番簡単かつ、現実的な路線ですよね」 「だろ?」 「――けれど、太陽(たいよう)さんも憎子(にくこ)さんも甘太(あまた)君も一緒に二階に上がったんでしょう?」 「……まあ、そうだな」 「三人で連れ添って行動していて、一人が死体というか、六十キロから八十キロくらいの肉塊担いでたとしたら普通気づくでしょう? 例えそのまま担かず何か袋にでも入れていたとしても、分かると思いますけれど。そういうわけじゃあなかったんでしょう?」 「んと……それじゃあ――そこに首切りの意味があるんだよ、体全部は無理でも頭だけならバックパックとかに入らないことは無いだろう?」 「じゃあ胴体どうしたんだよ、ってなりますよ。貴方たちが最初に見つけたのは頭だけでなく頭と胴体のセットだったんですから。胴体だけ二階に置けるなら最初から頭も置いとけばいいし、じゃなきゃ頭だけ何とかして二階に運んでも首から下は一階に置きっぱじゃないですか」 「……だな。万策出尽くした」 「はぁ……太陽(たいよう)さん? この程度の密室トリックしか思いつかないだなんて、それでも自称ミステリー作家だという自覚はあるんですか?」
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