【三章】天童太陽

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「他称ミステリー作家だぞー」 「じゃあ多少ミステリー作家の太陽(たいよう)さんに聞きますが」 「誰がそこはかとなくミステリー作家なんだよ」 「多分ミステリー作家の太陽(たいよう)さんに聞きますけれど」 「確実にミステリー作家だけどな?」 「ふふっ、まあ多角的に見ればミステリー作家と言えなくもない太陽(たいよう)さん、これならば貴方にも答えられると思いますが。何故犯人――と言う呼称も正しいのか分かりませんが――何故犯人は密室なんて作り出してみたんでしょうね。『自分が殺した』と言うことが目的ならわざわざ密室トリックなんて組まなくてもいいでしょうに」 「ははっ、まあそれくらいははっきりしてるだろ」 「――と、言いますと?」 「さあ、俺にはさっぱりわからないってことだよ。はっきりとな」 「うん、やっぱ使えねーわこいつ。聞いた僕が馬鹿だった」 「そうは言うが人殺しさんよ」 「だからそれは全部冤罪だって何回も説明しただろ!」 「さっき話してた奴全部冤罪の方が恐怖でしかないがな――例え冤罪だとしても捕まえておいた方がいいくらいに。けれど君はそう言うが、大体ミステリー作家は君達のような人殺しと違って現実的なトリックなんて考えなくてもいいんだよ」 「だから誰が人殺しだ、ったく。――えっと、現実的なトリック、ですか?」 「ああ、そうだな。……例えば、創作とはいえ現実でも実行可能かつ絶対にバレない殺人トリックを思いついたとしよう。鮮やかかつ大胆――そんなものを本当に生み出してしまったら、それはトリックとしては至高で最早芸術の域に達してると言えるだろう――が、実際そんなもの本にして出版しちまったら三流作家もいいとこだ」 「それは――」 「ああ、多分察してる通り実際に真似されたら困るからだ」 「……ま、それがどうして三流になるのかは分かり兼ねますが。しかしネット社会が発達した現代、そんなことが発覚すれば作家生命は絶たれるでしょうね。『作品名殺人』とでも名付けられていいように玩具になることは目に見えてますし」 「ああ、至高が最善とはならない事例なんて幾らでもあるように、高尚が最良とはならないんだよ。俺達のような人種に求められるのは地味で完璧な芸術より、派手で実現は不可能だがしかし、それらしくは見えるご都合展開なんだよ。ミステリー作家としてはそっちの方が遥かに有用だ」 「――なるほろ、ラノベ作家の言葉だと思うと金言なのかもしれませんね。下賎なラノベじゃなく高尚な書物が読みたいなら純文学よりも聖書とか六法全書読めば? とは僕も思います」 「おいおい、だから俺をライトノベルなんて書いてる作家の最下層扱いしないでくれよ」 「だからさ、お前そういうとこだぞ、マジで。というか偉そうなことごちゃごちゃ言ってたけどお前如きの真似する輩なんていねーから」 「……なんかさっきから当たり強くないか?」 「そうですか? 僕は接する相手には敬意を忘れないと専らの噂ですけど」
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