【三章】天童太陽

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              ◇  先の会話は僕と太陽(たいよう)の会話です。  うろ覚えですが。  太陽(たいよう)――つまり容疑者の一人は「天道(てんどう)太陽(たいよう)」という男でした。  非常時につき敬称略。  天道(てんどう)太陽(たいよう)とは本人が言っていたように本格派ミステリー作家――を自称しているライトノベル作家です。  ライトノベルと言えば、今世間一般的に浸透しているライトノベルが本来の意味するライトノベルと違うだとか偉い先生方かが言っているのを聞いたこがありますが、まあ「ライトノベルとはなんたるや」なんて語り出したらキリがないし、つーか知らないので浸透している方って事でお願いします。  ま、ラノベかどうかは読者の判断だか出版レーベルだかによって決まるとも聞きますから、世間的にラノベ作家として認知されていて思いっきりライトノベル系レーベルから出版している太陽(たいよう)は単にラノベ作家である、と断言しても差し支えないでしょうね。  主人公が「探偵王に俺はなる!」と謎解きの度に宣言する本格派ミステリーなど僕が認めても世間は認めないでしょうし。  年齢は聞いてませんでしたが――大学在学中に一念発起、小説家を目指しなんらかのツテでとある小説家に数年師事し、デビュー六年目とか言ってましたから……逆算するとギリギリ二十代か三十ピッタリってとこですかね。  そんな彼の第一印象はホスト? って感じでした。  理由は前述の通り。  白スーツに真っ赤なタイって流石にねーよ。  ……まあ僕が彼をそう判断した理由はそれだけじゃないですけどね、それだけじゃないって言ってもそれ以外の理由もやっぱり全部見た目の話ですが。  太陽(たいよう)の第一印象はよく言えば若者文化にも理解のある大人――普通に言えば若作りしている痛いおじさんって感じだったので、仮にあいつの一張羅らしい白スーツなんて着ていなくとも僕は「ホストかな?」と思ったことでしょう。  まあ、ゼロ年代には携帯小説隆盛でブレザー羽織って、スカートの丈を切り詰めて、携帯電話とカッターナイフ握ってた女子高校生作家がたくさんいたんですから、それと比べれば幾らかは小説家然として他のかもしれませんけど。  彼の小説家という職種への拗らせ具合――憧れ方から考えれば、むしろ着流しに小さな文机、名前入りの原稿用紙に、太軸の万年筆――なんて盛大に勘違いした方へ舵を切っていてもおかしくないくらいでしたが、まあそこは所詮太陽(たいよう)ですから、そこまで頭が足りなかったというだけなんでしょうかね。  ――あるいは「小説家」への憧れが強過ぎたのかも知れませんが。
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