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少し脱線しますが、天道太陽を小説家にした――小説家にまで仕立て上げた人物は二人居たそうです。
彼自身がとても嫌そうに、愚痴交じりに語ってくれましたがその一人は新人時代からずっと彼の担当をしている編集の殻井証拠さんです。
先に出てきた「朝凪の神水」を「朝凪の神水~転生した俺はユニークスキル《推理》を使ってモテエロハーレム探偵生活始めました~」を改題したのも殻井さんで、そのエピソードだけでも彼女の手腕がいかに優れていたかよくわかるでしょう。
ちなみに「夜色のアイスコーヒー」も太陽が勝手に言ってるだけの題名で、正式名称というか本当に出版した時のタイトルは「序列最下位の魔装騎士」。
「アロハシャツに乾杯」は「魔王を倒した緋色の勇者は学園生活始めました」だったそうです。
あいつは何を持ってして自分をミステリー作家だと定義してたんだろう。
それらの改題も勿論全てその殻井さんのお手柄らしいのですが、しかし彼女のお仕事は当然こんな風に履き違えたタイトルを商業向けなタイトルに改題するだけでは有りません。
むしろそんなのは雑事もいいところで――彼女の本当の仕事は作家を育てることでした。
殻井証拠という女性は編集者である以上に教育者であり、作家のこと以上に作家の人生のことを考えてる方だったのです。
「私の仕事は作品の編集ではなく、作家の編集なのだ」というのが彼女の口癖だったなんて太陽も言っていました。
ですから改題するとか、作品を面白くするだなんてことは殻井さんにとっては雑事に過ぎず、作品を作るなんてことは殻井さんにとっては中継ポイントでしかないんです。
彼女の生き甲斐は作家を作ることだったんですから――それは太陽の場合にしても同じです。
殻井さんは一十一人先生の元から放り出された天道太陽を拾い上げ、その辺の小学生よりも文章が書けなかった太陽に作文の練習をさせるばかりではなく、時には太陽の作る話を骨子に自ら筆を取る事もあったそうです――それを見た太陽が盗作だなんだと騒いで一悶着あったそうですが、本当に救えない。
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