【三章】天童太陽

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 少し脱線しますが、天道(てんどう)太陽(たいよう)を小説家にした――小説家にまで仕立て上げた人物は二人居たそうです。  彼自身がとても嫌そうに、愚痴交じりに語ってくれましたがその一人は新人時代からずっと彼の担当をしている編集の殻井(からい)証拠(しょうこ)さんです。  先に出てきた「朝凪の神水」を「朝凪の神水~転生した俺はユニークスキル《推理》を使ってモテエロハーレム探偵生活始めました~」を改題したのも殻井(からい)さんで、そのエピソードだけでも彼女の手腕がいかに優れていたかよくわかるでしょう。  ちなみに「夜色のアイスコーヒー」も太陽(たいよう)が勝手に言ってるだけの題名で、正式名称というか本当に出版した時のタイトルは「序列最下位(ワースト・ワン)魔装騎士(ディアボロ・ナイツ)」。 「アロハシャツに乾杯」は「魔王を倒した緋色の勇者は学園生活始めました」だったそうです。  あいつは何を持ってして自分をミステリー作家だと定義してたんだろう。  それらの改題も勿論全てその殻井(からい)さんのお手柄らしいのですが、しかし彼女のお仕事は当然こんな風に履き違えたタイトルを商業向けなタイトルに改題するだけでは有りません。  むしろそんなのは雑事もいいところで――彼女の本当の仕事は作家を育てることでした。  殻井(からい)証拠(しょうこ)という女性は編集者である以上に教育者であり、作家のこと以上に作家の人生のことを考えてる方だったのです。 「私の仕事は作品の編集ではなく、作家の編集なのだ」というのが彼女の口癖だったなんて太陽(たいよう)も言っていました。  ですから改題するとか、作品を面白くするだなんてことは殻井(からい)さんにとっては雑事に過ぎず、作品を作るなんてことは殻井(からい)さんにとっては中継ポイントでしかないんです。  彼女の生き甲斐は作家を作ることだったんですから――それは太陽(たいよう)の場合にしても同じです。  殻井(からい)さんは一十(いとう)一人(ひとり)先生の元から放り出された天道(てんどう)太陽(たいよう)を拾い上げ、その辺の小学生よりも文章が書けなかった太陽(たいよう)に作文の練習をさせるばかりではなく、時には太陽(たいよう)の作る話を骨子に自ら筆を取る事もあったそうです――それを見た太陽(たいよう)が盗作だなんだと騒いで一悶着あったそうですが、本当に救えない。
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