【一章】首切り死体を見て疑うべきなのは犯人の良識でしょうに

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 ――と、それを踏まえて、もう一度立ち戻りましょう。  ミステリー小説に出てくるトリックと言うものは当然自分の無罪を主張する為に組み上げられるものだと思います、誰かを庇ったりでもしない以上自らの犯行を証明する為の代物ではないんですから  ――それを踏まえればそんなもの(・・・・・)がどれ程までに非人道的な行いか理解してくれましたか?   人を殺すという行為でさえ指折りの悪業に違いないというのに、それだけに飽き足らず、我が身可愛さに人間だったものを悪意を持って加工してしまう。  そんな奴が居るとすればそいつは人間を一体何だと思っているんでしょうね。  人間というのは接着剤が要らないタイプのプラモデルじゃないんですから。  文字通り過剰殺人(オーバーキル)も甚だしい。  だから、僕はしたり顔で「首切り死体を見たらまずは入れ替わりを疑え」だなんて言ってるのを聞く度に「おいおい、いくら創作だからって物事には限度があるだろ」って思ってしまうんですよね。  だからこれ嫌いなんです。  まあ僕自身は別に読書家ではなく、僕が嗜む書物といえば専ら漫画を指す程度には漫画家ですから、そんな程度の低い奴が何言ってるの? って本家本元の読書家のお歴々には思われてしまうかもしれませんが――所詮僕の好みの話ですし。  そんな他人の嗜好に自分の考えを押し付け文句言うような狭量な奴らになんと言われようともとかに何も思いません。  あ、僕の好みの話の続きでいいなら、他にもあるんですけどね、例えば、僕自が唾棄する推理小説にありがちなことを列挙するならば今の「首切り死体を見たらまずは入れ替わりを疑え」というのは「密室殺人事件」――そして「名探偵の推理ショー」なんかと一緒に三指には入るんですけど。  特に一番嫌いなのが「名探偵の謎解き」です。  ええ、「名探偵の謎解き」と言えばミステ――え? 「お前密室殺人好きだろ?」いや、密室殺人も普通に嫌いでけど、言ってませんでしたっけ。
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