【一章】首切り死体を見て疑うべきなのは犯人の良識でしょうに

6/10
前へ
/208ページ
次へ
 ――「名探偵の謎解き」。  ミステリーの花形ですよね。  誰がそれを始めたのかは不勉強なので知りませんが、まあそんな愚昧な僕ですら名前を知ってるような方々が始めたことくらいは知ってます。  それはもう、「名探偵の推理ショー」は「首切り殺人」と違い昨今の推理小説では欠くことの出来ない存在となっている程なんですから。  その新境地を切り開いた先人はその功績だけで文学史に名を残していることでしょう。  しかしながら、それが尊敬するべき事柄であることは僕も同意しますが、先に言ったようにこれは僕の好みの話ですから。  僕はやっぱり「名探偵の謎解き」って嫌いなんですよね。  超個人的趣味かつ、超個人的な主張故に。  それは別に、分かりきったことを回りくどく、演技がかって、自分に酔った説明するスタイルにムカつくわけでは――いやそれも多少あるか。  探偵を名乗る人種は自己陶酔者でなくてはならない、だなんてルールないはずなのに、全員漏れなくナルシー入ってるのって不思議ですよね。  不思議は不思議ですけれど、それとは関係なく、三度身も蓋も無いことを言わせて貰えば。  もう推理小説を書く上で犯人よりも先に設定されることが多いほど探偵というものが定着したせいか、探偵=殺人事件の捜査をする役職という認識がもう世界的にと言っていいほど刷り込まれていますが――探偵って本来謎解きする職種じゃないでしょう? 仮に本当にそんな職業なんだとしたらおまんま食い上げでしょうし、そんな奴居ませんよ。  だから。  本来は読んで字のごとく探り、偵……偵……密偵の偵ですよ。  偵察の偵――うん、なんかそんな感じの職業のはずです、多分。  と、ともかく!  「探偵」が何かを探る職業だというのならば、なるほど、真実を探るというのもそれはあまり職分から外れてるとは言えないのかも知れません。  しかしそれでも「探偵」という職業に与えられた天分はどちらかと言えば治安維持機関というよりは諜報機関の方が性質が近いはずです。  いや、こう言ってしまうと「探偵なんて名乗っている胡散臭い奴らは全ての事件に決して関わるな、それは警察の仕事なのだから! お前は浮気調査やペット探しだけしてればいいんだ!」――なんて主張しているように聞こえるかもしれませんが、何も僕だってそこまで言ってません。
/208ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加