【一章】首切り死体を見て疑うべきなのは犯人の良識でしょうに

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 言ってません、が。  しかしそれでも探偵に与えられた領分なんて精々行方不明者を探したり、落書きをした犯人を見つけたり、誘拐された男性教諭を助けるくらいまででしょうに。  僕にも「どこでもドアを発明して全てのミステリーを終わらせる」なんて、豪語してる私立探偵の友人が居ましたが、それはそんな奇天烈な結論に至ってしまった彼の愉快な脳細胞と真実どころか謎すらも許容するその気質に惚れ込んでいただけで、彼の何色だかの脳細胞だとかそういうものには一抹の興味も敬意もありませんでした。  時に、公立探偵って居るんですかね――いえ、関係ない話です。  確かに「探偵」というものは、探る事が本分で(うかが)う事が領分で、人を疑う事が性分で、人を救ける事が涯分なのかも知れません、それは認めます。  身をもって知ってます。  ――けれど、こと殺人事件に限ってはお門違いなんですよ。  人を殺めてしまうような獣のどす黒い本性を探り、闇を(うかが)()るだなんておおよそ探偵に許された領域なんかじゃありません。  否、人なのか疑わしい畜生の性合いを、救い難い人間の際涯なき闇を、推し(おさ)めるなんて探偵以前に誰にも――人間に出来る筈もないんですから。  殺人事件に巻き込まれたのは被害者であれ、加害者であれ、第三者であれ、近隣縁者であれ、被雇用者であれ、通りすがりであれ――探偵であれ、誰も救われないんですから。  だと言うのに。  だからだと言うのに。  何も知らないくせに、何も分からないくせに、何も見当がつかないくせに、何も思い当たらないくせに、何も気づかないくせに、何も聞き及んでないくせに――何も知りもしないのに、何も分かりもしないのに。  探偵という奴はどうしてだか殺人事件に首を突っ込むんです、僕はそれが鼻持ちならないし、我慢ならない。  そんなもの話にならない。  僕は「探偵」を嫌悪します。  世の中には本人がそうしたくないのに、本人がそう望んでいないのに、不吉を孕んで、不穏を(なび)いて、不幸を嫌えない――そんな人間も居ると理解しているにも関わらず自覚はしていない「探偵」という奴を。  高々正しい程度で――たかが全ての正答を得られると言うだけで、全てを掌握しているつもりにでもなってしまう「探偵」を。  お前なんかが何かを変えられると思っている「探偵」を――僕は嫌いなんです。  ――えー、こほん。  盛大に話が脱線しましたね、とりあえず気持ちと話を戻します。
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