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明日の昼には新元号が発表される。
それと同時に平井は引っ越してしまう。だから今日がラストチャンスだったんだ。
ダメもとで誘った映画。まさか一緒に行けるとは思わねえし。
俺はすげえ舞い上がってたんだけど、同時に緊張もしていて。
駅前で待ち合わせしてる段階で心臓バクバクだったんだ。
「お待たせ」
俺は30分前に待ち合わせ場所に着いて、平井は10分遅れて来たから実質40分待ってたことになるんだが、そんな待ち時間なんか吹っ飛んだよね。
「ああ。待ってねえよ」
平静を装っていたが、「お待たせ」の一言とともに現れた平井が可愛すぎて、直視できないっていう。制服で見慣れてたからいざ私服姿見るとそれだけで新鮮だっていう。
「成田はさ」
「ん?何?」
おい何だよ、何を聞こうってんだよ。互いの名字呼び捨てで呼び合う距離感が心地良すぎて、であるがゆえにちょっと仲のいいクラスメイトみてえな関係が続いて今日まで来てるからさ。
「今日観に行く『ダンボ』のさ、元のアニメ映画版のほう観たことある?」
平井が、楽しそうに聞いてくるんだわ。笑うなよ。春の風に吹かれて桜の花びらが飛んで来るもんだから、余計にその笑顔が眩しく見えるんだ。ふざけんな、マジで。
「いや、ない」
そして自分のそっけいない返答に俺自身が内心がっかりするっていうね。
「ないの?結構面白いよ。観たほうがいい。ダンボが空飛ぶシーン感動するから」
俺は今この瞬間、お前とこうして映画観に行けてることが感動なんだが!俺の心のほうが空飛んで行きそうなんだが!と言いたかったんだが、いざ口にできた言葉は「へえー」だよ。まったくあきれるよな!
映画館に行くまでの道で沈黙の間ができるのが怖くて。かといっていざ二人きりっていう状況だと嬉しすぎて平静を保てないっていうね。
「平静に平静に…」
「ん?成田どうした?独り言言ってんの?」
うわー顔を覗き込んでくんなよ!くそ可愛いな!
「ほら、『平成』がもうすぐ終わるだろ。明日の昼には新元号が発表になる」
「発表の頃には、私はもう飛行機の中だろうな」
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