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「えっ?じゃあ、イジメてほしいの?」
サラリと流れた前髪の隙間から、無垢な瞳が覗いてる。
私の思考回路はショートした。
私の目の前は真っ暗になって、「板垣さん!?」と問いかける齋藤くんの声だけが遠くに聞こえた。
◆
ノート運ばなきゃ!
私は勢いよく起き上がる。
気付けばそこは保健室だった。
起きあがった音が聞こえたのだろう。「板垣さん、大丈夫?」と、保健室の先生がカーテンを開けて顔を覗かせる。
「大丈夫です」
「それなら良かったわ。サイトウくんが貴女が倒れたって運んできてくれたのよ」
私の頬が熱くなる。
運ばれてしまった。重かっただろうに。
「あ、2組の齋藤くんね」
私の大告白を知っている先生が念押ししてきたけど、そんな事わかってる。
枕元の台にメモ書きが置かれているのが目に入った。
『ノート運んでおきます。2組のサイトウ』
わざわざ『2組の』なんて書かなくてもわかるのに、丁寧に書かれたその文字に笑ってしまいそうになって唇を噛む。
「いきなり倒れたって聞いたけど、貧血とかかしら?」
「最近寝不足だったせいだと思います」
齋藤くんの言葉で失神したとは言えず、寝不足のせいにしておく。
あの時の彼は、思い出す事すら危険を感じる破壊力があった。あの時意識を失っていなかったら「いじめてください」とお願いしていたかもしれない。
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