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少しワクワクしたような口調に、私は思わず質問していた。
今度は齋藤くんの手も止まる。
「医者にはなりたくないかな。助ける事を義務にはしたくないし。結局は何も起きないのが一番だし。それに、僕は困っている人がいたら助けるのは当然だけど、他の人に僕が助けるのが当然だとは見られたくないな」
私には齋藤くんの言葉は理解できなかった。理解できなかったけど、おもしろいと思った。
「あ、笑った……」
齋藤くんが私の顔を見て言う。
「板垣さん、僕に対していつも怒ってるみたいだったから、何か悪い事したかと思ってたんだけど」
悪い事なんてしていない。
そうだ。彼は私に対して悪い事なんて何一つしていない。
それなのに、私が『サイトウダイスケ』という名前にときめいてしまう、という彼には全く非の無い理由だけで、避けて嫌おうとしていた。
それは医者という職業で人を好きになる事よりも、よっぽど最低だ。
「齋藤くん、ゴメン。悪い事したのは私の方だ。私、齋藤くんを嫌いになりたかったの」
私はにっこり微笑んだ。
「だけど、やっぱり齋藤くんが好きだ」
今度は齋藤くんが私の言葉を理解できなかったみたいだ。
しばらくポカンと口を開けていて、理解してくると齋藤くんの隠れている目とは反対に、見えている耳がみるみるうちに赤くなる。
その反応が可愛かった。
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