サイトウダイスケには惚れません!

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私は勢い込んで立ち上がり、まだ喋り続けようとするお母さんの口にお煎餅を突っ込んだ。 咀嚼時間の猶予を使って理解しようとするが、訳わかんなすぎて落ち着けない。 「考えたって無駄よ。愛は理屈じゃないんだから」 「かっこよく纏めるのやめてくれる?」 お煎餅を飲み込んでからドヤ顔を見せるお母さんに、私は力なく椅子に腰掛け直した。 「本当に考えたって仕方がないのよ。運命と言えば、運命だし。ま、呪いと言えば、呪いよね」 お母さんは一拍おいてから「サイトウダイスケくん」と名前を告げる。 どのサイトウダイスケかは分からなくても、その名前だけで胸がドキドキする私がいる。 「体験談として言わせてもらうけど、私たちはその名前以外の人にときめかないわよ。私の場合は婚期を逃しそうな所でおばあちゃんが教えてくれたのよ」 「その後どうしたの?」 「SNSで『イタガキゴウゾウ』を調べて、条件の良い人に猛アプローチかけたわ。それがお父さん。今は良い時代よね。検索すれば出てくるんだから」 「……そんな恋愛イヤ!!」 私は机を叩いてまた立ち上がり、今度は鞄を持って自分の部屋に逃げた。 名前で好きな人が決まるなんて、そんな馬鹿げた話があっていいはずがない。 そんなの、医者や弁護士、もっと簡単に言えば金持ちだから好きになるみたいなものだ。 肩書きだけでその人の中身を見ていない。 そんな恋愛、私は絶対にお断りだ! 私は『サイトウダイスケ』に惚れてなんかなるものか!
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