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むかーし、むかし。 いや、実はそんな昔の話ではないんですけども。 とある山には、恐ろしい山姥が住んでいたそうです。 遭難して亡くなった女性のそばに佇んでいたとか、紅葉狩りに出かけた老夫婦を鋭い視線で睨みつけていたとか、そんな伝説がまことしやかに語られていました。 だから、とある男が遭難して山姥に助けられたらしいという噂が経った時。 誰もその話を信じることはありませんでした。 しかしその後、今度は湖の神に襲われたカップルが試練を経て結ばれたという噂がたち。 色恋沙汰の噂が大好きな人間たちは、好んで湖を訪れるようになったと言います。 古くから神が宿ると崇められてきた山と、訪れる人間の安全を両方守るため、古くから住んでいた麓の人間たちは苦労したとか。 特に、山姥伝説のあった山奥は保護区域とされ、今も人の立ち入りは原則禁止されています。 ---ただ。 山の神様から出入りを許された唯一の人間が、折にふれその地を訪れていることは誰も知りません。 だから、この話を絶対に教えてはいけませんよ。 これにて、己を醜いと恥じていた山姥の恋の物語はおしまいです。 え? ---わたしですか? 実はね。 わたしは山神様と同じ山に住んでいる、若輩者の精霊なんです! 敬愛していた方の、切なくてドキドキする恋の顛末をこっそりと見守らせてもらっていました。 ……本当にこの話は、秘密なんですけど! この話を知って素敵だと思った方。是非是非、わたしにも会いにきてくださいね。 場所は秘密なんですけど。 ---貴方の愛の力で、探しにきてください!!! <終>
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