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……………。 「………!!! ………!!!」 誰だ。 わたしの耳元で騒いでおるのは。 「………!!! ………!!!」 何をそんなに必死に叫んでいるんだろう。 「山神様!!!」 はっと目を見開く。 空を仰ぐ自分の横に、誰か人がいる。 ゆっくりと明るさを取り戻していく視界。 ---必死に自分に呼びかけていたのは、かの想い人当人であった。 「……お主、は……」 人の身ではないせいか、飲んだ水を吐き出して咳きこむようなことはなかった。 己の身は妖。 己で己の存在を消すことに決めたのだから、そのまま消えるはずだったのだろう。 ただ、死に場所を想い人のいたところに決めたというだけのこと。 「どうして……」 「よかった……間に合った」 理由を問う前に、突然抱き締められてしまった。 自分は勿論、男の身体もずぶ濡れであった。 まだ夏の装いで薄着ではあるが、まさかそのまま飛び込んだのだろうか。 湖に身を投げた自分を追って? がっしりとした腕がわたしを囲って、それなのに微かに震えている。 「助かって、よかった……間に合って…本当に」 「---何故、お主がここに」 入水した自分を助けに来たのか? そもそも、なぜこの男がここにいるのだ。 あまりの驚きに頭が付いて行かず、呆然と震え声の男に問いかけてみると。 「---どうしてはこちらのセリフですよ! いくら貴女が山神様とて、湖に沈んだらどうなるかわかりますよね? なんで、こんなことを……ッ 。なんで、こんな、ことをッッッ」 ぽたぽたと、滴る雫は湖で濡れたせいなのか。 ……それならなぜ、肩に染み込んでくる「これ」はじんわりと肌に温かいのか。 「お主……。泣いて、いるのか」 ーーーその温もりこそが、己の求めていたもので。 それは冷え切った心を包む、眩い光のようで。 小さな光は段々と強さを増し、彼女の冷たい身体に広がっていく。 それが全身を包み込んだ時、心の水底に沈んでいた想いは湖面にゆっくりと姿を現わす。 じわりと浮き上がった温もりは、紛れもなく己の瞳に。 ---山姥は、生まれてから二度目の、大粒の涙を流した。
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