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<15>
何を言われたのかよく分からなくて、山姥はぱちぱちと目を瞬かせた。
「……お主は、一体、何を」
「貴女は僕の命を救ってくださいました。あの時、貴女を好きになったんです。一目惚れって奴ですかね?」
「こんな老いぼれの、どこを好きになるというのじゃ!」
「……? 人間を好きになったことがおありで?」
「あるわけがないだろう」
「貴女が何を根拠に仰っているのかはわかりませんが。人間は姿だけで恋に落ちるわけではないです。そういう人もいますが、決してそれだけではありません」
男はきっぱりと言い切った。
山姥はムキになって言い返す。
「そんなわけがあるか! お主のように若くて美しい男が、わたしのように醜い老婆を好きになるわけがないわ」
「初めて助けていただいた時は、確かにお歳を召した姿ではありましたが。命の恩人である貴女は、僕には神々しいほど輝いて見えましたよ」
そう言って、含みも何もなくからからと笑う。
……目眩が、する。
まるで狐に化かされているような気分だ。
---人と、妖。
これではまるで、あべこべではないか。
「あの時から何度もこの山を訪れました。勿論、鳥や景色の写真を撮りに来ていたのは事実ですが。でも、ファインダー越しに見る景色の中で、僕はいつも貴女がいないか探していましたよ。一目でも会えれば、貴女のお姿を写真に収められれば」
「……それを人間に売れば、さぞ高く売れるのであろうな」
「何でそんなに人間不信なんですか? 山神様は人間が嫌いですか」
居住まいを正して尋ねてくる男の視線から、気まずくて顔をそらしてしまう。
「そういうわけでは、無いのだが……。ほんの稀に見かけた人間は、皆わたしを怖がって逃げたぞ」
この山は、古来より神域とされていると同時に、遭難の危険もある山なのだ。
この男が足を滑らせて落ちてしまったように。
無闇に人が立ち入らぬよう、怖がられて近寄らなくなるならそれでも良いと思っていたから。
「……やっぱり、貴女は優しい神様だ」
しみじみと呟いた男は、足元に寄せては返す小さな波をしばらく見つめていた。
そうして、この山の守り神である妖にもう一度向き直る。
「そんな優しい貴女が、どうしてあんなことをされたのです」
「あんなこと?」
「……湖に身を投げましたよね。偶然落ちたとは言わせませんよ」
思わず後ずさりしそうになった身体は、ピクリとも動かなかった。
男のがっしりした掌が、いつのまにか山姥の生白く細い腕をしっかりと掴んでいたから。
「な、、、」
「理由を教えてください。貴女がいなくなったら、この山はどうなってしまうのです。そして……そして僕は」
最早赤面を通り越して青くなっていそうな己の顔を、今にも泣き出しそうな瞳で見て。
男は言った。
「好きになってはならないお方だとは分かっていました。でも惚れた女性に目の前で死なれる者の痛みが、貴女に分かりますか?」
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