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男は天気が回復するのを待って、山姥の屋敷(とはいっても粗末な山小屋に過ぎぬ)を去っていった。 一人の静かな生活に戻った山姥は、貰った手鏡をどうすることもできず。 己が信じる本物の山の神を祀っていた、神棚の上に置いておいた。 「この醜い姿など、毎日見てどうなるものか」 自嘲気味に呟いた。 そもそもなぜ、あの男を助けてしまったのだろう。 滑落したところで運良く生きていても、放置しておけば確実に程なく死んだだろうに。 ---男を見つけた時のことを思い出す。 長い足に、がっしりとした肩。 山登りをしているうちに焼けたのであろう、色艶のいい褐色の肌。 ……そして意志の強そうな、日に焼けた精悍な顔つき。 なぜ、あやつを助けてしまったのか。 その答えに気づくこともできず、ただ胸の内がざわつく感情の正体もしれないまま。 山姥は男が人間の世界へ帰った後も、ひっそりと暮らしていた。    
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