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---山姥は寂しかった。 ずっとこの山に、何百年も一人で暮らしてきた。 他にも山の妖や精霊たちはいたが、皆山姥を敬ってかえって近づいては来なかった。 そして時代が下って、新しくなると。 昔なら会うこともなかったであろう人間たちが、神の住む山と伝えられていたこの山に分け入ってくることが増えた。 親に連れ立って歩く、小さな子どもの兄弟を見た。 楽しそうに話す、老人の一団も見た。 ……仲睦まじく手を繋いで歩く、夫婦の姿も見た。 ずっと一人ぼっちだった山姥には、羨ましかったのだ。 誰かと一緒にいられることが。 それから毎朝、山姥は男に貰った手鏡を見るようになった。 醜い己の姿を見るのは嫌だったが、「貴女は女性だから」と言ってくれた男のことを思い出すと心が暖かくなった。 ただ、嬉しかったから。
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