2人が本棚に入れています
本棚に追加
<6>
「……誰だ、お前は」
---ある日の朝。
手鏡を見た山姥は、あまりの驚きに目を見開いた。
手鏡の中に、見知らぬ女が写っている。
幾分張りのある肌。
雑ではあるが切り揃えられた髪。
そして、何よりもそれまでとは比べものにならないほど澄んだ瞳。
それは山姥自身だった。
「……確かに。少しばかり身なりを整えるようになったが」
鏡を覗き始めてから、少しずつだが始めたこと。
朝起きた時、髪くらいならとかすようになった。
伸び過ぎて邪魔だった髪と爪は、思い切って切り揃えた。
荒れていた肌に少しでもよかろうと、僅かながら知識のあった薬草を取ってきて、すり潰した汁を顔や肌に塗っていた。
「……このワシが、若返ったというのか?」
それが己自身の姿だと、俄かには信じられなかった。
だが、山姥の心は確かに、その事実に喜びを覚えていた。
自分は、本当はそこまで醜くないのかもしれない。
もっと美しくなれるのかもしれない。
山姥はその日から、鏡を見るのを朝晩の二回にした。
朝起きて身支度を整え、鏡を確認してから外に出た。
夜、眠りにつく前にもう一度鏡を覗き。
昨日の己より、今日の自分が美しくなれているかを確かめた。
手鏡は大切に毎日磨き、傷つけたり汚さぬように気を配った。
持ち手の部分は、手の油を吸ってつやつやとしている。
鏡を手にして己を磨いては、また大切に神棚に戻す。
そんな日々が毎日続いて、一年が経った。
最初のコメントを投稿しよう!