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恐る恐る声をかけた。
「あの、鳴ってますね?…でも…もう、役目は終わったんじゃないすか?」
「うん、それでも一応持ってるの。」
「そうっすか…」
何だか気まずい沈黙…ああ、これで夜の楽しみは台無しになった。
彼女は未成年だが、働いている。まぁ、一種のボランティアに近いモノと見ていい。
(正直、ボランティアとしては、割に合わない程の貢献ぶりだが…)
しかし、それも今年で引退。次の者達に引き継ぎを済ませていた。ちなみに
俺自身も彼女に合わせるようにして退職。
現在は転職活動中(雇用保険とか入ってなかったので、非常に苦しい状況ではあるのだが…)
明るい一歩を踏み出す前の夜だと思ってたのに…この人はどうして…
「まぁ、あれじゃないすか?次の子達にもしっかり、引継ぎは済ませているんでしょ?
だったら、もう、出番はないっすよ。これからは自分の事を考えればいいじゃないすか?
ほら、美味しいモノとか食べてさ!」
「うん…」
困り顔で俯く彼女にフォローとちょっぴりの不満を混ぜた言葉を返してみた。しかし、
余計に考えさせてしまった様子。イカンな…言葉というか、説得と納得に近いモノを
続けてみる。
「自分の事と言えば、色々あります。進路に、買い物、友人達と過ごす楽しい時間。
それに、あれです。将来と言えば、例えば恋?恋人作りとか…なんてね。アハハハハ」
「??…うん?…」
(ええーっ“うん?”とか何の脈もなしーっ!?頬を染めるとか、笑顔戻るとか、
そーゆうシチュすらないの?つまり、それは近くに該当する人皆無って事…マジか…)
困ったように小首を傾げる彼女に、俺の希望的観測は一気に絶望と落胆に変わる。
マジで報われない…ホント、バッカだな俺っ!?
彼女のために、彼女のボランティア活動とは全く反対の業務内容の
会社を退職したのに…“見込みある”って言われ、世話にもなった同僚と上司を裏切ってまできたのに…バッカで無意味でどうしようもない。
そして、惚れた女もバッカと来ている。それも筋金入りの…加えて自覚なし!
これは俺の勝手な見解と一方的な想い入れ、しかしだ。言わせてもら、いや下さい。
これだけは!
「あのですね。」
「うん」
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