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ちょうどそのとき、まるで勇者を讃えるかのように、雲の切れ間から陽の光が差し込んだ。神話の一場面のように。彼を祝福するように。この光景は、兵士たちの目には何と映るか。
腕に血が伝うのがわかる。まだあたたかい、彼女の体温を感じる。
ーー戦争が泥沼に陥ったとき、そういえば、このぬくもりを抱き締めたいと願った気がする。そんなささやかな願いすら、ついぞ叶わなかったのだなと、他人面の自分が言う。
ーー早く洗い流さねばと思う。こんなものは演出でしかない。だから、早くこの生首を下ろして、この血を濯がなければ。
幾度となく敵の返り血を浴びてきたが、こんな感情が渦巻くことはなかった。
顔を上げられない彼の視界に、首の無い亡骸が映り込む。
ふと、血だまりの深紅の中で何かが光っているのが見えた。極めて細い、鎖のようなものだ。それが首飾りだと思い至ったとき、ドクリと、心臓が嫌な音を立てた。彼には心当たりがあった。
鎖は二ヵ所切れていた。彼が首を落としたとき、一緒に断ったのだ。千切れた続きは、亡骸の首の断面に引っ掛かっていた。
呼吸が乱れていく。ドクドクと駆け出す鼓動を止められない。
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