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「引いたつもりはないですよ」  オレを担いだままコテージに歩いていく。オレ達のでも先生達のでもない部屋に連れて行かれたが、先生の権力の濫用にはもう慣れた。  先生は部屋を横切りベッドまで行くと、その上にオレを降ろした。波の音が聞こえる部屋で天蓋付きのベッド。まるでロイヤルスイートルームだった。こんな状況でなければ頭がお花に埋もれてただろう。 「先輩とは何もありません。あれはあの人の(たち)の悪い冗談です。僕は汐見君しか見えていないし、欲しくない」  真っ先にさっきの事を否定する。 (そりゃそう言うしかないよね。じゃあオレが見たものは?その冗談、乗ってたじゃん。言い訳になんか──なってねーよ)  冷めた気持ちで聞き流すが、ふと言葉が引っ掛かる。 「先輩……?」  そんな呼び方をしたのを聞いたことがない。 「言ってませんでしたか、霧谷先生は大学時代の先輩なんです」 「そんな前から?だからあんなに仲がいいんだ──」  その情報は、かえってマイナスポイントだった。 「仲なんて良くないです。付き合いが長いから絡み方が悪質なだけです」  先生が嫌そうな顔をして、それが心を一層ザワザワさせる。
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