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──笑った顔を初めて見たとき、息が止まりそうになったんだ──
オレと友人2名はまっしぐらに購買に走っていた。今日こそは、と意気込んで。
4時限目は化学室での実験で、いつもの教室よりはるかに購買に近い化学室からなら、いつも売り切れのやきそばカレーパンが手に入れられる。
やきそばカレーパンと旧校舎の怪談話。私立真宮堂学園高等学部に入学してから二ヶ月、この2つの噂を耳にしない日はない。
あの廊下を曲がれば購買は目の前だ。
「とっつげきー」
士気を上げるべく、オレは友達を振り返って拳を上げた。
「あ、ちょっとシオっ」
「やばい、前!」
友の焦りの意味を知るヒマもなく、身体にドスンと衝撃が走る。持っていた教科書がバサリと落ちる。大きな木にでもぶつかったような反動に弾かれて尻もちを着いた。
「廊下を走ってはいけませんと、言われる理由が分かりましたか」
上から声が降ってくる。第一声はお説教だ。だけど怒るでも呆れるでもない、聞こえた感じは、おっとりとやさしかった。
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