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見上げると、肩幅が広くがっしりとした背の高い男が見下ろしている。どんな表情かは分からない。ほぼ目を覆い隠す、伸びすぎた黒髪と太い黒縁メガネのせいで。マジマジとその姿を見つめる。あまりの風貌に一瞬自分がしたことを忘れ去った。
(スーツ着てるし生徒じゃねーな。オレが知らない先生か……)
「転ばせてしまってすみませんでした。怪我はないですか」
自業自得で転んだのに、そんな風に言って手を差し伸べてくる。見掛けはともかく、良い先生みたいだ。
「大丈夫……ぶつかったのオレだし、ごめん」
素直に差し出された手を取った。関節の目立つ、乾いた大きな手のひらだ。手を握ると先生はヒョイと音がしそうに軽々と引き起こす。
「うん、良かった。何でもなければいいんです。えーと……」
先生は床に目をやってしゃがみ込む。オレの教科書を拾い上げ表紙を眺める。
「1年A組 汐見眞尋君──」
オレの名前を読み上げる声が何故か嬉しそうに明るくなる。膝を着いたまま先生がオレを見上げ、ようやく顔が見えた。
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