501人が本棚に入れています
本棚に追加
声のトーンに今さっきよりも温度を感じる。苛立つ間宮をさらに煽るよう、少し踵を上げた霧谷が首を仰向け猫のように目を細める。
「関係、ねえか?本当に?なあ──間宮」
小さく舌打ちをした間宮が壁に両手を叩きつけた。壁と身体で囲い込み、至近距離で見下ろす影が霧谷に落ちる。
「さっきから何ですか。欲求不満は先輩でしょう。そんなに僕に抱いて欲しいんですか」
「お前こそオレに抱かれたいんじゃねえの」
霧谷は嘲るように笑って、胸倉を掴み引き寄せた。
「溜まってんだろ。せっかくイイトコ来てんだし、たまには楽しもうぜ」
好色者じみた仕草で唇を舐め上げて見せ、持ち上げた片足を間宮の太ももに巻き付けて腰を密着させる。
つかのま時が止まり、天井に取り付けられた大きなファンだけがゆっくりと回転を続ける。
小さな物音に気付いた間宮が、怪訝そうな顔をして霧谷を押し返した。
「何を企んでるんですか先輩。冗談でもやりすぎじゃ──」
霧谷がしてやったりという面持ちで邪悪に笑う。
「────ちょっと──あんたまさか──」
間宮は険しい表情になり、物音のした玄関に目を向けた。
「クックッ──今なあ、そこで汐見が覗いてたぞ。正念場だな。頑張ってフォローして来いや」
それを聞いた間宮が青くなった。身を翻して部屋を出る背中に霧谷の声が追う。
「それからなあー、おまえ、怖えぞ」
「言われなくても分かってます!」
バタバタと慌ただしい音が去り、室内に霧谷の笑い声が響いた。
最初のコメントを投稿しよう!