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「ほらほらシオー、間宮先生だよ」  左十がオレに耳打ちしてきた。階段の下にいる先生のことを言っている。教室移動の途中で姿を見掛けた。  言われるまでもなく左十よりずっと前から気付いている。先生の身体が大きくて目立つからじゃなく、気配だけですぐ分かる。オレの先生探知機は高性能だった。 「シオー声かけなよ。オレが呼んじゃうよ?間宮センセー!」 「ちょ、なに勝手にっ……」  顔を上げた先生が、オレ達に向かってヒラヒラと手を振った。──頭の中にポンポンとお花が咲いていく。 「ちょっと、なに和んでんの。話してきなよー」  ぐいぐいと左十が押し出そうとする。きっとこいつは肉食なんだろう。でも恋愛のペースくらい好きにさせて欲しい。こんな、いかにもな状況で寄って行っても(うつむ)いてモジモジするだけだ。オレが。 「やめろ、押すな。行かねーって」 「照れちゃってー。しおたんかっわ──あ」 「汐見君!」 「うあ?」  身体が──浮いた。揉み合う内に階段を踏み外した。  次の瞬間ドシン、と硬い体が抱き止めた。先生がオレをしっかりと支えている。かなり勢い良く衝突したのによろけもしない。
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