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「香の気持ちは、周りにも本人にもバレバレだっただろうしね」
「たしかにー」
あたしたちは3人、顔を見合わせて笑う。
「郁人なりの気遣いなのかもね」
「うん」
付き合えてないけど、郁人に気を使ってもらえる香が羨ましいだなんて言ったら怒られるだろうけど。
気持ちを隠すことなく、郁人にぶつかることのできる香が羨ましかった。
「郁人、いいやつじゃん」
桜苗が香の腕を小突く。
「ずっと、いいやつだよ」
2人に聞こえなような声で呟く。
中学の頃から見てきた記憶があたしにはある。
郁人は、何もなしに人のことを傷つけるような人じゃない。
前から周りのことを気遣える、そんな男の子だった。
話したこともないけど、ずっと、ただずっと見続けてきたから。
目を瞑れば、浮かんでくる。
中学のときの郁人。
あたしの中学時代は、郁人ばかりだった。
全くおなじ教室にいたことはないけど、ずっと目で追っていたからわかる。
郁人の笑った顔、ふざけた顔、真面目な顔、怒った顔。
すべての表情を知ってるんだよ。
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