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「じゃあ僕はそろそろ行くね」
そう言って立ち上がろうとする彼。だけどついに限界を迎えたのか、彼は倒れそうになってしまう。そんな彼に私は慌てて近寄り彼の体を支える。
「だめよこれ以上は! あなたの方が参っちゃう!」
気づいたら私は悲痛な声を上げたていた。
けれど彼は黙って私の頭にポンと手を置いた。その手から再び彼の温かさが伝わってくる。
「大丈夫。それにね、君のような人はたくさんいる。その全ての人たちを、僕は放っておくことができないんだよ。例え自分の身を犠牲にしたって、僕にとっては哀しみにくれる人を見てることしか出来ないことの方が辛いんだ」
「そ、そんな! そんなのってないよ!」
確かに私は彼に救われた。
彼が私の前に現れてくれなければ今も膝を抱えて一人で泣いていたに違いない。
この競技場の中には私と同じ悲しみうちひしがれる選手が数多くいるだろう。
私は良かった。
彼に先に見つけてもらえたから。
でも次に見つけてもらった人からもう彼に元気づけてもらえなくなるなんて、そこにそんな優先順位のような、優位性のようなものが存在していいのだろうか。
いや、そんな事はない。絶対にない。
彼は皆に等しく平等なのだ。
だから彼は歩みを止めない。
困っている人たちを救い続けるために。
今日の誰かの泣き顔を、笑顔に変えるために。
それが彼にとっての救いでもあるのだから。
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