忘れたいのに、忘れられない、せつない想い

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――――プロローグ ・・・・・・・・・あれは、事故だ。 運が悪かっただけだと自分に言い聞かせた。 亘 春登は、大学四回生だった。 就職内定をもらい、卒業論文も提出した・・・あとは卒業を待つだけの気楽生活。 バイトはするものの飽きてしまい、昔馴染みがいた演劇サークルに顔を出すうち、 いつの間にか部長になっていた。 最初は、「演劇なんてガラじゃない」と困惑したのが、 脚本作成に関わるとこれが意外に面白く、 男女数人で一つの芝居を作るのに夢中になっていった。 秋も深まり・・・その日亘達は、学祭の演目シェイクスピアを公演中だった。 「鈴木、声が小さくなってる時がある。気をつけろ」 「わかりました」 「緊張してるか?」 「・・・少し」 「大丈夫だ。いつも通りやればいいからな」 「はい、亘さん」 ジュリエット役の鈴木愛美と、ステージの袖で話していると、 出番待ちの沖田恭司が寄ってきた。 「亘さんは、厳しいなぁ。秋月くんも厳しいけど負けてないね」 「恭司、マキューシオの出番はまだだろ?」 「落ち着かないんですよ。ここから観ていたっていいでしょ?」 「・・・・・・そりゃ構わねぇが。北川は、どうした?」 「深月ちゃんなら、後ろのシーンの小道具の用意にいってます」 「・・・お前より、北川の方が動いてるな」 「ひどいなぁ。僕は、役者だからあちこち動けませんよ」 「あぁ、ロミオ・・・あなたはなぜ、ロミオなの?」 シーンは、有名なバルコニーの一幕へ突入した。 鈴木愛美の華やかで可愛らしい容姿は、衣装にぴったりはまり、 本人の努力もあり、ヒロインを担当することは多かった。 そして庭園で隠れているロミオが、秋月昴。 亘のサークルで亘以上の演劇バカで亘に演劇の面白さを教えたのも秋月だった。 鈴木愛美がサークルの看板女優なら、秋月はさらに上をいくエースであった。
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