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「本当~~に! ごめんなさいね!」
「い、いえ……私の方こそ留守中にお邪魔してしまって……」
「そんなのはいいの! いいの……よ。……えぇ」
徐々に小さくなって行く 声の主の視線の先には明らかに不貞腐れている朔がいた。
私と朔の前であれこれ喋っているのは朔のお母さんだった。
実はあの後──朔にお姫様抱っこされてベッドに下ろされて、いよいよ私も大人の階段を昇っちゃうんだ! なんてドキドキしながら身を任せていると、突然階下から聞こえた物音にふたり揃って固まった。
予定よりもうんと早く帰宅した朔のお母さんが玄関に揃えて置いてあった靴を見て階下から朔に呼び掛けたのだ。
(……という経緯があって今のこの現状……なのだけれど)
「あの……朔くん、ごめんなさい」
「は? なに謝ってんの」
「だってわたし、どうしたってお邪魔しちゃったでしょう?!」
「っ! べ、べべ別に邪魔って……邪魔って何のだよっ」
「彼女とふたりで部屋にいたらしたくなっちゃうのはごく自然なことよ? それなのにわたしったら……」
「だから別に何もしてねーって! てか、なんか会話が噛み合っていねぇ!」
(おぉ…。なんだか新鮮だぁ)
朔とお母さんが話しているところを初めて見て、またひとつ知らなかった朔の顔が知れた。
(お母さんといる時はこんな感じになるんだな)
私が想像していたよりもうんといい人そうなお母さんに心の何処かでホッとしていた。
「紅実ちゃん」
「! は、はいっ」
いきなりお母さんに声を掛けられて驚いてしまった。
「これに懲りずにいつでも遊びに来てね。朔くんの彼女ってことはわたしの娘でもある訳だから」
「……は? む、娘…?」
「あ、あんたは…! いちいち気が早いんだよっ」
真っ赤になって叫ぶ朔を見てやっと意味が解った。
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