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中学3年の秋から付き合い出した私と朔の交際も気が付けば半年が過ぎていた。
陽生ちゃんを始め、私も朔も無事受験を乗り切ってこの春には晴れて高校生になることが決まっていた。
「……寂しくなるなぁ」
私がボソッと呟いた言葉に前に座っているふたりが神妙な顔をした。
卒業式を数日後に控えていた私たちは中学生でいられる最後の休日をファミレスで過ごしていた。
「なんで黙っていたの? 陽生ちゃん」
「んーどうしてかと訊かれると……紅実に寂しいと思われる期間を少しでも短くしようと思って……かな」
「なんだよ、それ。結果として寂しさの度合いはより深くなったんじゃねぇの」
「そうだよ、すっごく寂しいよ」
「ははっ…。困ったなぁ」
私と朔の言葉を相変わらず飄々とかわす陽生ちゃんは高校進学と共に自宅を出て寮に入るのだと知ったのはつい数日前だった。
陽生ちゃんは私たちにいっていた地元の進学校じゃなく、他県の超有名私立高校を受験していたのだ。
その高校は大学までエスカレーターということで陽生ちゃんなりにメリットを見出して決めたことだった。
「でも本当凄い。陽生ちゃん、塾にだって行っていなかったのになんでそんなに頭がいいの?」
「さぁ……どうしてかな。僕はただ興味のあることについて知ろうと思っているだけで勉強しているんだけどね」
「陽生の場合、正真正銘の天才ってやつだ」
「う゛ぅ~~その頭の良さの何割かが欲しいぃ~~」
「うーん……あげられるものならあげたいな。紅実の頭がよくなれば一緒の大学に行けるかも知れないしね」
「はぁ……やっと高校受験が終わったばかりなのに大学の話はしないで~」
「だな」
今日はささやかな陽生ちゃんの壮行会みたいな集まりだった。
陽生ちゃんは卒業式の翌日には家を出てしまうからこうやって長々とお喋り出来る機会はもうないのだ。
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