第四章 社会人時代

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「ひょっとして……何か悩んでいる?」 「……え」 少し俯き加減になっていた耳に入った声に顔を上げた。 「結婚に対して」 「……」 朔のお母さんが優し気な眼差しで私の顔を覗き込んでいた。 「なんだか最近、わたしが知っている笑顔の紅実ちゃんじゃないなぁって思っていたの」 「……」 「何か思うことがあったら……それが差し障りのないことだったら話して欲しいなと思うんだけど……無理?」 「……」 (……凄いなぁ) 中学生の時から顔を合わせている人。 私の母が私のちょっとした変化を見逃さないことは知っていたけれど、まさか朔のお母さんまでとは。 (私、きっと恵まれ過ぎている) 好きな人の家族によく思われているなんて凄く幸せなことだと思う。 いつか……多分近い将来、本当の家族になるだろう人たちの気持ちが嬉しいと感じている。 (話してみようか……今、思っていることを) そう思うと自然と口が滑らかになった。 「あの……実は朔から結婚したいってことは前々からいわれていて……」 「うん」 「でも私、就職したばかりで……仕事もまだ全然こなせていないのに結婚して家庭と仕事の両立っていうの……出来る自信がなくて」 「うん」 「出来れば仕事は続けたくて……でもそうすると朔の奥さんとしてちゃんと色んなことをやれるかどうか不安で」 「うん」 「朔にはちゃんとした家庭を与えたいって思っているのに……このままじゃきっとどっちも半端なまま──」 「与えたいってなんだよ」 「っ!」 話している途中、聞こえた声にドキッとした。
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