第四章 社会人時代

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何事もやる前からグチグチ悩むんじゃないと朔はいってくれた。 大変な時こそ、口に出していってくれなきゃ解らない。 本当の気持ちは声に出さないと察してやれないと。 (本当……朔って昔から変わっていないね) その口は嘘をいわない。 付き合い始めてから朔の口から私を傷つける言葉が出たことはない。 それだけで私は朔に全てを任せてもいいとさえ思ってしまっていた。 「だから紅実、結婚しよう」 「……はい」 十六澤家丸ごと巻き込んだ大騒ぎの後には公開プロポーズが待っていた。 朔から告げられた二度目のプロポーズには何の躊躇いもなく返事が出来た。 「いやぁ、めでたい! でかした、息子よ」 「っ、お、親父」 見届け人になってくれた朔のお父さんからバンバン背中を叩かれて朔は心底嫌そうな顔をした。 「ようやくおまえが結婚することになってくれて嬉しい。やっと……やっとお前に渡せる」 「は? 何を」 突然お父さんが感慨深げに漏らした言葉に朔は勿論、私も引きつけられた。 「実は此処に引っ越すまで住んでいた家があっただろう? おまえにとっては思い出のある家だ」 「……あぁ」 「あの家をおまえに譲る」 「───は?」 (えっ、確かその家ってお義母さんと再婚したのをきっかけに売ったって……) 昔、朔から訊いた話を思い起こす。
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