第四章 社会人時代

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「幸せ者だな、俺たち」 「……うん。本当にね」 式を終えた私たちはこれからふたりで住む新居で寛いでいた。 新婚旅行は私と朔の仕事の都合を見てまとまった休みが取れた時に行こうと決めていた。 式を挙げ、入籍を済ませ、私は正真正銘朔の奥さんになり── 十六澤紅実になった。 「朔、お風呂湧いているから先に入って」 「は? 何いってんの」 「え」 不意に腕を掴まれた朔の掌は少し熱かった。 「結婚初夜にひとりで風呂に入れって……酷い事をいう嫁だな」 「えぇーだって初夜っていったって私たちそんなに初々しいものじゃ──」 「紅実って淡泊」 少し拗ねたような口調でいいながら朔は私をギュッと抱きしめ、そのままお姫様抱っこをした。 「! ちょ、ちょっと」 「違うだろう、今までとは」 「え」 「俺は紅実の夫で紅実は俺の妻」 「……」 「神様に認められた正真正銘の夫婦だ」 「……うん」 「そんな記念すべき日にイチャイチャしないでどうする」 「っ、イチャイチャって…!」 朔の言葉にじんわりと酔っていたところにいつもの調子の言葉が続いたから気持ちが素面に戻ってしまった。 「しよう? イチャイチャ」 「~~~もう……」 心の底から私を求めていることが分かり過ぎる程に色っぽい眼差しを向けた朔に私もすっかり溺れてしまった。 (どうしよう……凄く好き過ぎておかしくなりそう) 初々しい花嫁ではない私は貪欲に朔を求める気持ちを隠しておくことが出来なくなっていた。 素直な気持ちのまま朔に身を委ねると、朔は今日一番の幸せそうな顔を私に見せてくれたのだった。
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