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「それが今度は、中国で人が花になってしまったと言うんですよ。あと、人参果まで登場してきました。先生、人が花になってしまうなんてありえませんよね」
「人が花だって、これまたすごい話だねえ。しかし、まあ、普通はありえんよ」
すると今井先生のとなりで同じくランチを食べていたIT企業に勤めている篠塚くんが口を目ざとく口を挟んできた。「人が花ですか、それは面白そうな話じゃないですか」
「なにかの比喩じゃないのかな」と今井先生が言う。
「うーん、比喩といえば、むかしそんな小説を読んだことがあったかなあ。ちょっと待ってくださいよ」と篠塚くんがスマホを取り出してなにか検索しはじめた。「ああ、あった、赤江瀑の「恋怨に候て」ですね。身性の毒が、人を花に変えるってやつです」
「それはどんな話なんです」と小路丸が質問する。
「小路丸さん、この話は本当に花になってしまうんじゃなくってあくまで比喩です。狂言作者の話で本当の花にはなりませんよ」
人間、毒がありゃこそ、花も実もなる。耀いもする。毒を喰らわにゃ、おまえさん、いつまでたっても、紺屋の白生地。味もそっけもありゃしねえ。
とスマホの画面にうつしだされた小説の一部を小路丸に見せた。
「そうですよねえ」小路丸はがっかりしながらそう言った。
「篠塚くん、赤江瀑なんて読むんだ」今井先生が感心した顔で言う。
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