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「よくそんな細かいところまでよくおぼえているねえ。わしはそんな細かいことまで思えてなんかないよ。なにしろ西遊記を読んだのは四十年以上も前のことだから、いや歳をとって耄碌してきたせいかもなあ」と今井先生が寂しそうに言った。
「先生、さっき篠塚くんスマホで検索してましたよ」
「もう、小路丸さんばらさないでくださいよ」
すると店の扉が開いて郵便の配達人が入ってきた。
「こんにちは、郵便です」
「はい、ごくろうさまです」小路丸は荷物を受け取りにキッチンスペースから出てきた。
「なんだろう、また先輩からだ」と受取のサインをして荷物を持って戻ってくる。
「なにか進展があるといいけれどねえ」と今井先生は心持ち嬉しそうに言った。
開けてみましょうと小路丸が箱を開くと中にはチャックがついて密封できるビニール袋に入ったドライフルーツのようなものと一枚の手紙が入っていた。
あれから張くんのところに彼女のお父さんから人参果が送られてきたんだ。手紙の内容は、先日はこちらから招いて来ていただいたのに申し訳ないことをした。人参果はこの地域で密かに育てられている果物で、西遊記にもあるように食べれば寿命が伸びるというめでたい食べ物である。それを乾燥させてドライフルーツにさせたものを送るのでお詫びのしるしといってはなんだが、ぜひ食べていただきたい。
そのような文面だったらしい。彼女のことについてはなにも触れてはいなかったそうだ。
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