暮れの桜

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 私はあの日の娘の嘘を忘れはしない。  四月一日。娘の十二歳の誕生日。  その日は日曜日。満開の桜と柔らかい陽光が人々を外へと誘う暖かな日であった。  昼は娘の友人四人を招いてパーティを開き、夜は家族だけで娘を静かに祝う予定であった。特別な夕飯で一人娘を祝うのは毎年恒例のことであるが、娘の友人を招いたのはこの年が初めてである。  当日の朝。私は娘の友人である二人の男の子と共に、娘の誕生日プレゼントを買いに来ていた。娘はパーティに招いた女友達二人と遊びに出掛けており、私達がプレゼントを買いに出ていることも、妻がパーティの用意を進めていることも知らない。私達があるサプライズを計画していることも当然知らなかったであろう。 「あいつ、絶対びっくりするぞ!」  男の子達がサプライズの成功を予見したように笑い合っていた。その計画が娘に受け入れられるのかという不安があったが、それを口にする度に彼等は決まってこう返した。 「最近流行ってるし、動画の再生回数も凄いんだよ!」  三十半ばであった私は小学生の流行なんて知らず、動画の再生回数がどれほど重要な基準となるのかも分からない。その未知が不安の正体なのだろう。そう判断し、子供達に任せることにしていた。  事前に決めていた娘へのプレゼントと妻に頼まれていた諸色を買い、私は二人を連れて早々に帰宅した。
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