追憶

7/7
前へ
/14ページ
次へ
「ここが天国?」  視界に飛び込んできたのは、満点の星空だった。 一瞬、天国の空は地上によく似ている。  そう感じたが身体が水に浸かっている感触で海に浮かんでいることに気付いた。 「あれ、私……飛び降りた、はず……」  徐々に意識が覚醒していく。  また幸運の女神の仕業か。自殺の名所でも死ぬことはできないなんて。 「お前は自殺できない」 「だ……れ……?」 「死神、と言えばお前には通じるだろう」  身体が思うように動かせない。  視線だけを横に動かすと、そこにはいつものように死神が立っていた。 「アナタは……幸運の女神。というか今、会話してる?」 「何故かは分からん。ただ期待を裏切って悪いがオレは幸運の女神じゃない」 「そうみたいね……アナタの口調や雰囲気、男の人っぽいもの」 「人間が定義した性別など、どうでもいい。肝心なのはお前は自らの意思で死を選べない」 「自らの意志で、死ねないって……どういう意味?」 「お前の言葉を借りるなら幸運の女神の仕業だ」 「死神のアナタが言うなら、間違いないわね。過去に何度も試したけど、失敗ばかりだったし」 「結論から言おう。オレなら、お前に死を授けられる。理由は分からないが、幸いにもココでオレとお前は意思疎通ができる」 勝手に死神って呼んでたけど、本当に死神だったんだ。 「死をくれるってことは、貴方が私を殺してくれるの?」 「肯定しよう」  そっか。私やっと死ねるんだね。  死神と会話できるなんて、幸運の女神もたまにはいいことするじゃない。 「イヤイヤ、ちょっと待ってよ。そもそもアイツが余計なことをするから、私は死ねないんじゃないの!」  一瞬、納得しかけてしまった。  自殺に失敗して、身体中が痛いし。変なことを考えても仕方ないか。 「お前は承諾すると思って、溺死を試みたが失敗した。オレは水とは相性がよくないみただ」 「え、今何て言ったの。溺死させようとしたって聞こえたんだけど?」 「別の手段を思案する。また明日、ここへ来てくれ」 「ちょっと。私の話、聞いてるの?」 「どうやら、ここでしかオレたちは会話ができないようだ。そうなると殺す手段も限られてくるな」 「無視するなっ!」  この日から、私と死神の殺し合いが始まった。  殺し合いといっても、私が一方的にやられるだけなんだけどね。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加