2人が本棚に入れています
本棚に追加
「今日はどんな方法を試してくれるのかしら?」
私は崖先へ一歩。また一歩と足を進める。
長い金色の髪が風に煽られ、私の頬を叩く。
「幸知。何度も言ったが、そこから飛び降りても死ねない。ただ、ものすごく痛い思いをするだけだぞ」
隣から聞こえるくぐもった声を無視し、私は更に進む。
他人から見た私は夜更けに自殺しようとする、過去に何かイヤなことがあった女のように見えるかも。
「おい、聞こえているだろっ!」
あと一歩で足は空を切る、という直前で私は足を止めた。
「冗談よ、驚いた?」
いつものように淡々と私にだけ聞こえる声に返答する。
「チッ、ホントに調子が狂う女だ。今日こそはお前を殺す」
「いつも同じセリフを言ってるけど、それを言わないとダメなの?」
「今夜はオレの道具を使う」
私の指摘には応えず死神は大きな鎌を振り上げる。
「死神の大鎌……草を刈るんじゃなくて魂をとる。だっけ? フフッ、楽しみ。これで私、本当に死ねるのね」
「あぁ。今度こそ確実に、だ!」
言い終えると死神は女の首筋へ、持っている鎌を振り下ろす。
その瞬間、突風が吹き抜けた。
幸知の首を落とす刃は、代わりにパキンと折れる音を響かせた。「あぁーっ!?」
また失敗かぁと声には出さず私は内心で呟く。
心のどこかでまたダメなんだろうな、とも思っていた。
今までの殺り方とは変えて死神の道具を使ってみたけれど、それでも結果は同じ。
私は死ねない。
いつもと変わらない結果に私は感動も悲観も何も感じない。
それよりも、むしろ。
「死神の鎌って大岩で折れるのね」
「クッソ、物質化した瞬間に強風だと。どこまで運がいいんだ……あぁ、もう萎えた! ヤメだヤメ。オレの負けだ」
折れた鎌を手放し、ふてくされたように死神はそっぽを向く。
「私、今夜も殺してもらえないのかしら?」
「オレの道具でもダメとなると、本当に幸運の女神ってやつが憑いてるのかもなッ!」
捨て台詞を吐きながら、死神は口を閉ざした。
こうなるともう会話はできない。
「このままではダメね。どうすれば死ねるのかしら?」
私の独白は荒ぶる波と強風だけが聞いていた。
最初のコメントを投稿しよう!