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初めて受けたオーディションは合格。
また幸運の女神の仕業と邪推したが、幸知は心の底から喜んだ。
地方のローカル番組でセリフが一言しかないモブ役で読み合わせもない。
これも大女優への第一歩だと、どんな小さな役でも喜んで引き受けた。
しかし、幸運の女神は想像よりも意地悪だった。
回数をこなす内にモブからサブ、やがて主演へ。
両手で数えられる程度の役を演じただけで幸知はテレビ、映画主演と夢の階段を上っていった。
大した実力もないくせにと、主役を奪われた女優たちから悪口や陰口を言われる。そんなことは幸知自信が誰よりも分かっていた。
それでも勢いは止まらない。
様々な媒体から出演依頼が殺到しスケジュールはあっという間に埋まった。
実力に反して忙殺される日々に幸知は憎しみの感情が生まれた。
――どうして私だけ?
他の人はもっと辛い体験をしているから我慢しろろマネージャーから指摘される。
人の気持ちなんか分かるはずがないのに勝手に私の気持ちを決めつけるなと、幸知の心の中に歪んだ感情や気持ちが溜まり続ける。
しかし、負と殺意が混ざった感情をぶつける相手はどこにもいない。
広い高層マンションで一人ぼっち。
傍には死神しかいない。 気がつくと、幸知は死神に愚痴をこぼすようになっていた。
返答がないのも分かってる。抵抗しても状況が変わらないことも理解している。それでも死神に本音を聞いてもらえるだけで幸知の心は軽くなった。
そして、結婚話の話題が出てくる年齢になると、巷で笑顔が素敵だと評判の人気俳優からプロポーズをもらった。
誰の目から見ても幸せな状況で幸知はこれ以上、女優を続けることはできないと思った。
誰にも理解されない孤独な感情を抱えたまま、太陽が昇る。
幸知は寝間着のまま始発電車に乗り、何度も乗り継ぎを行い、見知らぬ田舎街へと辿り着いた。
そこはかとなく地元に似ている、というのが第一印象だった。
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