芍薬の寺

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和尚さんは庫裏に行くと、にぎりめしを持ってきました。 子狐は庭先で、オスワリをして待っておりました。 「ほれほれ、食べなされ」 和尚さんが縁側に置くと、子狐は急いでやって来て、爪先立つと、おにぎりにかぶりつきました。 「よっぽど、おなかが空いておったんじゃな。いっぱい食べなされ」 子狐はペロッと食べてしまうと、円らな瞳で和尚さんを見上げました。それはまるで、お礼を言ってるかのように和尚さんには見えました。 「おなかいっぱいになったかな?」 「コン」 子狐は返事をすると、庭先に咲き乱れた芍薬の花たちと戯れ始めました。 「おう、おう、元気がよいのう。ハハハ…」 子狐はピョンと跳んでは、芍薬の花に鼻先をくっつけて遊んでおりました。 子狐は飽くことなく遊びつづけ、夕日が沈むころになっても帰りません。 「これこれ、はやく帰らぬと、母さんが心配するぞ」 和尚さんがそう言うと、子狐は哀しそうな顔を向けました。 その目には涙が溢れておりました。 「…どうしたんじゃ?なにがあったんじゃ?」 和尚さんが尋ねると、 「…コン」 と、弱く鳴きました。 和尚さんは、親にはぐれたのじゃろうと思い、 「…じゃ、今夜は泊まっていくとよい。明日、夜が明けたら一緒に探しに行こう」 と言うと、子狐は、 「コン」 と鳴き、喜んでいるようでした。
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