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朝の新宿駅。
耳を劈く電車の音。
誰が話してる訳でもないのに、騒がしく感じる人混み。
沢山の人と、すれ違って。すれ違われて。
ふわりと一瞬。
貴方の匂いがした。
私は思わず、勢いをつけて振り向く。
貴方の姿はどこにもない。
いてもきっと、この人混みじゃわからない。
そして、今の私じゃ、わからない。
貴方のことを、私の隣にいなくても大丈夫だと、言ってしまった私には。
貴方を好きだった頃は、どこにいたって、貴方を直ぐに見つけてしまったのに。
私は、前を向いて。
人の流れに沿って、改札の外を目指す。
目の前には、バスタ新宿がそびえ立つ。
『あそこの4階にバスが来るらしいよ。』
初めて2人でバスタ新宿を見た時。
貴方は信号が変わるのを待ちながら、スマホを見てそんなことを言っていた。
吹っ切ったはずだった。
吹っ切れてたつもりだった。
だって、貴方の隣を、もう歩けないと言ったのは、私の方だった。
どんなに悩んだ結果でも、やっぱり伝える時は息が苦しくて、少しだけ手が震えたけど。
1人になってから、貴方との記憶を上書きするように、色んな人と貴方との思い出の道を歩いた。
この新宿駅だって、毎日の通勤路。
もう、貴方と歩いた回数以上に、1人で歩いてしまっていた。
それなのに。
きっと、貴方の匂いがしたせいだ。
ずるい。
なんで匂いっていうのは、一瞬で、私を昔に戻らせてしまうんだろう。
隣を歩いた時に、貴方の肩越しに見える横顔。
「繋ごう」ってお互いに言えないから、貴方がこっちを向かないで控えめに手を差し出して。
それに私が気付かなくて、少し拗ねてしまう。
くだらない2人だけのゲームをした。
言い合いをしながら、キッチンに立って。
同棲したみたい、なんて言い合って笑い合ってた。
朝起きた時、貴方が1番に目に入るのが、最高の幸せだと思ってた。
大好きだったの。
大好きだったんだ。
こんなの、思い出させるなんて。ずるいなあ。
貴方はきっと、私のことなんて思い出さないで、気持ち良くまだ寝ている時間だろう。
私の隣に、貴方はもういない。
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