記憶の彼。

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「久し振りじゃねぇ?全員揃うのさ。」 武が言い、智生も同意した。 「去年の大晦日以来だね。」 「まだ、半年だよ…。」 透子は呆れて言う。 奥からお盆に載せて、ジュースを入れたコップを持って来ると、康夫も呆れた様に言った。 「飲んだら帰れよ?現役高校生と違って忙しいんだからさ。ここはもう喫茶店じゃないんだぞ?」 言いながら椅子に座る。 「ちゃっかり透子の横だぜ?昔から透子のお願いは聞くんだよな…。」 武が言うと、顔を赤くして否定する。 「違うわ!お前らがそっち座ってっから、ここになるんだろ。四人しかいないんだからさ。」 「武はいちいち細かいのよ。いいじゃない、どこに座ろうが…。」 言いながら、透子は気にもせずジュースを飲む。 武と康夫が小競り合いしている間に智生は透子に話しかけた。 「ねぇ…この前話してた夢の話なんだけど…。」 「うん?小さい頃の?」 顔を上げて、斜め前に座る智生を見た。 「うん。あいつの名前、思い出せなくてさ。確かにいたのは憶えているのだけど僕は教室でも接点がなくて、何処にいたかも記憶がなくてさ。よく考えて、後ろに座ってたのを思い出したんだ。1番後ろ、廊下側のね。」 「うん……言われてみたら…私の席も1番後ろだった…気がする。」 「僕も何となく、透子がここに連れてきたのは憶えてるけど、教室では憶えがない。」 言い争っていた康夫が話に参加すると、 「俺は全く、学校での記憶はない。体育とかなら憶えてるはずなんだけど、全くだ。ここでしか記憶はない。あれ……みたいじゃね?」 と楽しそうに武が言う。 「何よ?あれって…。」 「ほら、全員知ってるのに一人多いってやつ。」 「ああ~…。一人多いのは確かに分かるのに、誰が多いか分からないっていう、映画?だったっけ?」 「そうそう、そんな感じ。」 今度は智生と武が仲良く話をする。 「幽霊みたいに言わないでよ?確かにいたよ?」 「ああ、違うんだ透子。」 智生が真面目な顔で話した。 「何となく気になって調べてみたんだ。あの時、2年だったでしょ? あの子、国語の時間だけ、うちのクラスに来てたんだよ。友達の兄さんが知ってた。聞いたら覚えてたよ。」 鞄からポケットサイズの写真入れを出した。 そこにあの子が写っていた。
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