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高校の運動場の隅にある手洗い場で、真っ黒に日焼けした友人はサッカーボールとタオルを手に言った。
「それ……小2の時だろ?ヤスのとこの喫茶店さ、俺たちが小2くらいから駄菓子置きだしたんだ。おばさんが他所にパートに出てさ。あの辺り、閉まり出しちゃってさ。
誰も客がいないなら、子供でもいいやってさ…。俺たちの溜まり場だったもんな。」
「そうそう…妙に夢に見るんだよね?」
神崎透子(かんざき とおこ)は、懐かしい目で言った。
話しているのはサッカー部の武(たける) 、幼馴染の一人だ。
武は下級生にモテていて、二人で話しているだけで注目の的だ。
「相変わらず、視線が痛いねぇ…。」
透子が呟くと武も負けじと答える。
「痛い視線はお互い様。意外に透子モテんだぜ?気付いてないだろ?ていうかあれだ…お前の場合は性格に難ありだ。一見、大人しそうで可愛いからな?モテるけど、性格がバレたらみんな去る…可愛そうにな?」
「何処が難有りなのよ?」
ストレートの黒髪ロング。そのまま縛りもせずにいる。
制服は襟を崩した白シャツ、ネクタイは帰り際のサラリーマンの様に緩められている。
4月…この時期に着る上着は腰に巻いて、チェックの膝上のスカートと同じ位の丈になっていた。
「お前さ、1年の時、上級生速攻で振っただろ? しかもさ、よく知らないし、今、部活命だし、付き合うとか分かんないし…。どういう理由だよ。ありがとう、ごめんね?て可愛く断れよ。」
「煩いな。部活楽しかったのよ。」
透子が言うと、後ろから声がした。
「そうそう。透子は部活を頑張ってた。」
眼鏡を掛けた真面目そうな男の子、幼馴染二人目、智生(ともお)だった。
「あれだろ?弓道部、去年で廃部。人数少ないし、実績ないし?智生の剣道部は全国だぞ?」
「透子も全国行ったよ?周りがさ…。仕方ないよ。透子一人の成績で、弓道部は場所を取るし、危ないしね。」
「そうよ、1年で全国よ。尊敬しなさいよ。サッカー部は予選敗退じゃないの。」
「可愛くね~。中身、男だもんな。だから去って行くんだよ…。」
「たける!」
殴ろうとすると、運動場から声がかかり、武は返事をして走って行く。
「ったく…。会話にならないんだから。」
透子が言うと、智生は笑いながら聞く。
「なんの話?」
「小学生の頃の夢をよく見るって話よ?」
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