0人が本棚に入れています
本棚に追加
「さて」と私は集まった人々の顔を見渡した。お酒のケースを逆さにしてその上に乗った私に、買い物客の視線が集まる。探偵の醍醐味だ。
「まず、平成のH、昭和のS、大正のT、明治のMは除外だ」
当然だ、という顔の観客に更に言う。
「IとLとOもない」
「どうして?」と彼が聴く。
ケースに乗っている私よりも背が高いのは癪に障るが、冷静に答える。
「数字の1と0に見間違う。CとFもないな」
「えー、書きやすそうだけど」
「バカだな、キミは。ヘボン式のローマ字表記にCとFは出てこないし、そもそもF1とか書かれると勘違いすることもある」
「ああ、じゃあ、同じ理由でJとGとKもないよね。サッカーと競馬と格闘技だ」
「キミにしては上出来だが、Rもない」
「あ! お笑いの」
私は厳かに頷き、A4ノートサイズのホワイトボードにアルファベットを書きなぐる。
「紙のサイズに使われるAとBもない。残るはD、E、N、P、Q、U、V、W、X、Y、Zだが」
QとV、Xを消す。
「これらは日本語にはない発音だ」
「となると、D、E、N、U、W、Y、Z……」
「キミならどれを選ぶかね?」と水を向けたが。
「うーん、W、かな。なんかカッコ良くない?」
もっと推理しろ、俗物め。
最初のコメントを投稿しよう!